歌舞伎。
筆者を含む一般庶民の多くは、『敷居が高い非日常の世界』と認識している人が多いと思われる。
しかし、そこで使われる用語や表現は日本人のメンタリティや思考の基礎部分にまで浸透しており、日常生活の中で気づかないうちに使っていることがあるので、まとめてみたい。
【 使用例(ビジネスの世界) 】*<カッコ>内が歌舞伎用語
- <ノリノリ>の<御曹司>は<お家芸>の<段取り>も<板につき><世界>の<檜舞台>でも<大向うを唸らす>ほどの<千両役者>ぶりで、<大立者>の父さえ<出る幕>がありませんが、「<とちらない>」と<大見得を切った><正念場>の<大詰め>で<黒幕>が<裏で糸を引いた><どんでん返し>があり「<悪玉>を<奈落の底へ落ちる>べし」との<捨て台詞>による<幕引き>となりました。
ア行)
- 愛想尽かし/愛想づかし(あいそづかし)
- 合の手/合いの手(あいのて)
- 悪態(あくたい)
- 悪玉(あくだま)⇔善玉(ぜんだま)
- 当たり役
- 粗筋(あらすじ):公演プログラム『筋書(すじがき)』中の『あらすじ』より。このページを見ればどの場面で誰が舞台上に出るか知ること出来る(らしい)
- 言い立て(いいたて)
- 板につく
- 一枚看板(いちまいかんばん)
- 市松模様(いちまつもよう)
- 居所(いどころ)
- 色男(いろおとこ)
- 色事(いろごと)
- 受ける/ウケる:「観客の受けが良い」と言う意味が、「笑いを取る」や「笑いを誘う」に変化している
- 打ち上げ:太鼓を打ち上げる→興行の終わりを告げる→興行後の慰労会→イベント後の宴会
- 裏方(うらかた)
- 裏で糸を引く(うらでいとをひく):(衣装の)早変わりの補佐(脱ぐ衣装に入っている糸を引き抜く)をする人
- 海老反り(えびぞり)
- 縁切り(えんきり)
- *縁(えん/えにし)自体は仏教起源
- お家芸(おいえげい)
- お家騒動(おいえそうどう):江戸時代の大名家内における内紛劇や権力闘争を題材とした演目で、重要ジャンルの一つにまで拡大した。
- *実話として演じる事は禁じられていたので、実際は、時代をずらしたり設定を変える必要があった。
- *狂言由来説もあり
- 大看板(おおかんばん 或いは だいかんばん)
- 大舞台(おおぶたい 或いは だいぶたい)
- 大芝居(おおしばい)
- *小芝居に加え、中芝居もあったらしい
- 大立ち回りを演じる(おおたちまわりをえんじる)
- 大立者(おおだてもの)
- おはこ:<歌舞伎十八番>からの派生
- *大事な18演目の台本を<桐箱>に入れて保管した事から
- おはようございます:その日、初めて顔を合わせた相手に対して、時間帯に関係なく使う
- オウム/オウム返し
- 大立ち回りを演じる(おおたちまわりを演じる)
- 大詰め(おおづめ) *中詰(ちゅうづめ)もある
- 大向う(おおむこう)
- 【用例】大向こうを唸らせる
- 【掛け声の例】日本一。ご両人。待ってました。○○屋。
- 思い入れ 【用例】思い入れたっぷり
- 表舞台に躍り出る(おもてぶたいにおどりでる)
- *『躍り出る』と『表舞台』は別々に使われる方が多い
- 【用例】主役の座に躍り出る、表舞台に登場する、首位に躍り出る、表舞台から姿を消す
- 御曹司(おんぞうし)
カ行)
- 開幕(かいまく)
- 顔ぶれ(かおぶれ)
- 顔を見せる:顔見世(かおみせ)、顔見世興行(かおみせこうぎょう)より
- *諸説あり
- 顔役(かおやく):特定の分野や業界などで影響力や発言力がある人。
- *諸説あるが、歌舞伎由来説が最有力
- 書割/書き割り(かきわり)
- <用例>書き割りのような空。
- 楽屋(がくや) *もともとは雅楽由来
- 肩入れ/肩入れする(かたいれ/かたいれする):ある人物の味方をすること
- *もともと肩に継ぎがある衣装の事で、貧乏人や落ちぶれた境遇であることを示す
- 【用例】売れない歌舞伎役者に肩入れする
- 敵/敵役(かたき/かたきやく)
- 歌舞伎揚げ(かぶきあげ):揚げせんべい
- カブキロックス:音楽バンド(1986~)
- 看板/看板○○ 【用例】看板役者、看板力士、看板メニュー
- 決め台詞(きめぜりふ)
- キリ(がない)
- *「キリ」自体はポルトガル語の「十(じゅう)」より???
- 切り口上(きりこうじょう)
- 口説く(くどく)
- くどくど 【用例】くどくど弁解する
- 黒子(くろこ)
- *正式には黒衣(くろご)らしい
- 黒幕(くろまく)
- ケレン味(けれんみ):外連(ケレン)、すなわち本道を外れて奇をてらった演出の事だが、趣向が凝らされていると言う意味で、肯定的に使われる事もある。
- 【例】ケレン味のない真っ向勝負。ケレン味たっぷり
- 後見(こうけん) *能や狂言の方が先か?
- 口上(こうじょう)
- <派生>前口上、逃げ口上
- こけら落とし/杮落とし(こけらおとし)
- *元々は建築(主に神社仏閣)用語
- 小芝居(こしばい)
- *大芝居と中芝居もあったらしい。
- 声色(こわいろ)
サ行)
- サクラ:無料(あるいは安い料金)で入場する代りに舞台を盛り上げる客で、大向こうにいる場合が多かった
- *『桜の只見(ただみ)→お花見は無料→無料で劇場に入れる人』とか『一瞬だけ姿を見せたり存在感を出す人』が由来と言われるが、基本的には隠語であるため、決定的な説はない。
- ザ・グレート・カブキ:プロレスラーのリングネーム
- 差し金(さしがね)
- 鞘当て(さやあて)
- 三枚目(さんまいめ) :芝居小屋に掲げられる出演者の絵看板のうち、3枚目に道化役(コメディ担当)が描れるのが通例だったことから。
- *通例として、一枚目は主役~八枚目は座長のように、全部で8枚掲げられたらしい
- 三文芝居(さんもんしばい)
- 三文役者(さんもんやくしゃ)
- 七変化(しちへんげ)/七変わり?
- 芝居(しばい)
- *もともと屋外、特に河原で上演されていたことが想像できる
- 芝居がかった/芝居がかる
- しゃべり
- 十八番(じゅうはちばん):その人の得意な芸や芸。
- <由来と派生>市川家(成田屋)の得意演目18種→『歌舞伎十八番』→その台本は桐に入れて箱に大切に保管された(と喧伝された)→箱入り→おはこ
- 愁嘆場(しゅうたんば)
- 述懐(じゅっかい)
- 修羅場(しゅらば):阿修羅=仏教より
- 正念場(しょうねんば): もともとは仏教の”正念”より
- 助六/助六寿司(すけろく/すけろくずし):いなり寿司と巻寿司のセットで、主に折り詰め弁当として販売されている
- 『助六』と言う演目のヒロイン『揚巻(あげまき)』より→揚げと巻き→いなり寿司と巻物の折り詰め
- 筋書き(すじがき):歌舞伎の公演プログラム『筋書』より
- 捨て台詞(すてぜりふ)
- 世界:演目の設定のこと *諸説ある模様
- セリフ/台詞:舞台詞(ぶたいことば)の略?
- *「セリフ」と言う読みは中国語の「説理譜(シュオリーフー)」から来ていると言う節がある
- 世話女房(せわにょうぼう)
- 千両役者
タ行)
- 大根役者/大根 【由来】食あたりしない→当たらない、おろしたくなる、白い→素人、他
- 立ち回り/立ち回る(たちまわり/たちまわる)
- 立役者(たてやくしゃ)
- 段取り(だんどり)
- だんまり:暗闇と言う設定でセリフのない場面。漢字では『暗闘』があてられる(らしい)。
- 茶番/茶番劇(ちゃばん/ちゃばんげき)
- 出る幕(でるまく)
- 【用例】出る幕がない。あんたの出る幕ではない。
- てれこ:2つの物語を並行させながら進める演目。転じて、物があべこべや入れ違いになること。
- 道化/道化役(どうけ/どうけやく):道外方または道化方より。『三枚目』の看板に描かれる事が多かった。
- ドサ回り(どさまわり):旅興行の隠語。転じて、地方への左遷の事。
- *『ドサ』の語源については諸説あるが、『佐渡』の逆さ読みとの説が有力
- とちる *元は雅楽起源か?
- 虎の巻(とらのまき) *元は中国の軍法書?
- ドロドロ/ドロンドロン/ドロン:太鼓による登退場時の効果音 【用例】ヒュ~ドロドロ(お化けの登場)、ドロンする(忍者が姿を消す)
- どんちゃん騒ぎ:戦闘の場面で太鼓と鉦が打ち鳴らされる様子から
- どんでん返し/どでん返し:短時間で場面転換するための装置。
- とんとん拍子(とんとんびょうし)
- トンボ/トンボを切る:バック転のこと
- 【用例】トンボ返り、トンボ帰り
ナ行)
- なあなあ 【用例】なあなあの関係
- ない混ぜ/綯交ぜ(ないまぜ):複数の物語を絡み合わせた演出や演目
- 奈落(ならく):せり上がりに使われる舞台下に通じる穴 *元は仏教用語
- 鳴り物/鳴り物入り(なりもの/なりものいり) *能や狂言から導入?
- 二枚目(にまいめ):芝居小屋に掲げられる出演者の絵看板のうち、2枚目に色男(イケメン)が描かれるのが通例だった事から。
- *通常、一枚目は主役~八枚目は座長のように、最大でで8枚掲げられたらしい
- にらみ/にらみを効かせる
- 濡れ場(ぬれば)
- のべつまくなし
- 乗る/ノル:三味線の伴奏と合っている状態→(三味線の)糸に乗る→乗る/乗り
ハ行)
- 場当たり:本番直前、実際に使う舞台で動きや立ち位置を確かめる最終段階のリハーサル
- 場違い(ばちがい)*諸説あり?
- 花形(はながた)
- 花道(はなみち)
- はまり役
- 早変わり(はやがわり)
- 贔屓(ひいき)/贔屓筋(ひいきすじ)
- *贔屓はもともと中国における伝説上動物。柱や石碑を指させる亀の形の土台として目にすることが多い
- 檜舞台(ひのきぶだい)
- 引き際:引き潮とも関連有り?
- 引き抜き:(衣装の)早変わりを補佐をする人が、脱ぐ衣装に入っている糸を素早く抜き取る事
- 引っ込みがつかない
- 引っ込む
- 一芝居/一芝居打つ(ひとしばい/ひとしばいうつ)
- 一役買う(ひとやくかう) *要検証
- 札止め(ふだどめ) *相撲語源?
- 舞台裏(ぶたいうら) *能や狂言からの転用か?
- 仏壇返し(ぶつだんがえし):舞台装置の一種で、相撲の決まり手(現在は”呼び戻し”)に転用された
- 本番(ほんばん) *能や狂言からの転用か?
- 蓋を開ける(ふたをあける):興行が開幕すること。
- *芝居小屋を箱に見立てた事からか?
- 判官贔屓(ほうがんびいき/はんがんびいき):弱い立場の者を応援すること
- *判官はもともと官位(役職名)だが、特に補足説明がない限りは、源義経の事を指す
マ行)
- 幕開け(まくあけ)
- 幕が切って落とされる(まくがきっておとされる)
- 幕切れ(まくぎれ)
- 幕引き(まくひき)
- *「幕を下ろす」は西洋の劇場のスタイルと思われる
- 幕の内弁当(まくのうちべんとう)
- *"万久(まんきゅう)”と言う店が芝居小屋で売り出したと言う記録と、それを裏付ける錦絵(浮世絵)が残っている
- 見得/見得を切る(みえ/みえをきる)
- *正しくは『見得をする』
- 見せ場(みせば)
- 見初め(みそめ):後に恋愛関係になる男女が初めて出会う場面
- 身を引く(みをひく)
- ゆすり/強請り:ゆすり場/強請場より
ヤ行)
- 役柄(やくがら)
- 役者が揃う(やくしゃがそろう)
- 役者が違う(やくしゃがちがう)
- 役不足(やくぶそく):演者の実力や格に対して与えられる役が小さい事(演者>役)。
- *『力不足(役>演者)』と混同されやすい
- 役回り(やくまわり)
- <用例>損な役回り
- 役割/役割り(やくわり):役を割り振るこ事およびその役に期待されるパフォーマンス *要再検証
- 屋台骨を支える(やたいぼねをささえる) *屋台=仮設の芝居小屋や見せ物小屋
- ラ行)
- 連中(れんじゅう):現代のファンクラブのような存在?
- ワ行)
- 脇役(わきやく):もともとは能の用語らしい
その他要確認)
- 立ち位置。立場。場数(ばかず)を踏む。バタバタする。
【まとめ】
- 沢山あるだろうと予想して調べ始めたが、ここまで浸透しているとは思わなかった。具体的には、仏教用語(当サイト調べで圧倒的最多)に次いで豊富なようだ。
- チョー不思議で有り難いご縁に感無量👈クリックで移動します
- 仏教用語、能、狂言、雅楽などからの転用も含まれるが、それらを慣用表現にまで押し上げた<立役者>が歌舞伎であった事に、異論の余地はないだろう。
- 歌舞伎の題材は幅広いが、筆者が冒頭の例文を考える際にはビジネスの<世界>が頭に浮かんだ通り、組織運営における<段取り>や<役割>に関連する言葉や表現が多いように感じた。
2024/5/26 改訂(34回目)
2021/3/20 初出
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