“赤毛のアン”
『本や読書にほどんど興味がない人でも題名は知っているレベル』の作品の一つだと思われ、その原作はカナダの女性作家、モンゴメリ(ルーシー・モード・モンゴメリ)が英語で書いた、”緑の切妻屋根のアン(Anne of Green Gables)”と言う物語を翻訳家 村岡花子が日本語に翻訳した作品である。
主人公は自分の髪色に絶望的なコンプレックスを持つ12歳の少女、アン・シャーリーで、複数の翻訳、映像作品、関連本などを通して、本国以上に日本で愛されている。
シリーズは最終的に11作にまで及ぶが、全ての要素は第1作目に含まれており、さらにそれを1行にまとめると次の通りになるであろう。
- やせっぽっちの芋虫が空想を餌にして蝶になるまでを描いた成長日誌
- 【補足】
- "赤毛のアン"はまったく続編を想定して書かれたものではない。
- そもそも出版物として世に出なかった可能性の方が高く、仮にモンゴメリが続編を想定していたとしたら、マシュウ(アンの最大の擁護者であり理解者)が亡くなる展開にはしなかったはず。
実は、筆者も英語の勉強を兼ねて"赤毛のアン"を原書(Anne of Green Gables)で読んだ事がある程のファンであり、ひとつひとつの会話から紡ぎ出されるアンの姿は、女性の理想像の一つだと思っている。
また、構成的には、登場人物、舞台、設定などに実在のモデルが存在し、これらに関わるエピソードが、章仕立て積み上げられて行くと言う、シンプルなものになっている。
- 【補足】
- "赤毛のアン"冒頭のエピソードかつ最も重要な設定、すなわち<養子として男の子の斡旋を依頼したのに、手違いで女の子が来てしまったが、依頼主がその子を不憫に思ってそのまま引き取った>と言うエピソードも、新聞記事から着想したと言われている。
しかし、アンの内面的なモデルと推測されるモンゴメリ自身について少しでも調べると、物語とは全く対照的な心情で、人生を過ごした事が分かる。
- 【補足】
- アンの容姿面については、執筆当時に人気があった少女モデルを参考にしており、雑誌から切り抜いた彼女の写真を机の前に貼って、それを見ながら執筆したと言われている。
- 【モンゴメリの実像】
- 人生で最も古い記憶が、1歳9ヶ月の時に見た『棺(ひつぎ)に横たわる実母の姿』
- 社交的な性格ではない
- 36歳から始まった結婚生活でも苦難が多かった
- 死因が自殺(本国のカナダではよく知られた事実らしい)
つまり、原作である ”緑の切妻屋根のアン” は、作者のつらい体験や単調過ぎる田舎暮らしと言う細くて脆い骨格を、凄まじいばかりの想像力で肉付けする事で成立した、大人向けの文学作品だと言える。
実際、 ”緑の切妻屋根のアン” と言うタイトルも、決して読書欲をかき立てる物でないと思うし、物語の内容も古典に関する知識がないと理解しにくかったり、説明的かつ冗長な描写も多い。
- 【補足】
- 村岡花子訳の"赤毛のアン"はページ数(価格と紙)の制約により、終盤が原作と比較してかなり端折られている。
- しかし、結果的には、物語として問題なく成立しており、予備知識を持った上で原作と読み比べない限り、これに気付いたり違和感を持つ読者は皆無だろう。
このように、原作は決してとっつきやすい作品とは言えないため、複数の出版社に原稿を送って売り込みを掛けても、忙しい担当者達がじっくりと読めるはずはなく、『ようやく一つの出版社に拾われるまで門前払いを食わされ続けた』と言うエピソードは、至極当然の結果だったと言える。
また、出版が決まったと言っても、会社から特に期待されていた訳ではなく、契約内容も作者側に極めて不利なものだった。
【まとめ】
- モンゴメリの原作と村岡花子の訳を、物語の舞台であるプリンスエドワード島の特産品を使った料理に例えて比較すると…
- <ジャガイモに例えると・・・>
- 原作:皮付きの塩茹で(せいぜいじゃがバター)*ただし食材のクオリティ自体は最高☆☆☆☆☆
- 花子訳:ジャガイモの食感をしっかり残しながら、クリーミーさを共存させたポテトサラダ
- <ロブスターに例えると・・・>
- 原作:塩茹でを手づかみで食す*ただし食材のクオリティ自体は最高☆☆☆☆☆
- 花子訳:赤い色が鮮やかな殻に、食べやい大きさに切った身を詰め直したエビグラタン
- 原作(緑の・・・)と村岡の日本語訳(赤毛の・・・)は、色相環上において最も遠い距離に位置する反対色、あるいは補色関係にある作品である。
- つまり、"赤毛のアン"は村岡花子と言う翻訳家が、"緑の切妻屋根のアン"から重さとか冗長さを取り除きながら、会話中心でテンポが良い『あかぬけ』した物語に仕立て直した、別作品に近い物と言える。
【邦題決定に関するエピソード】
- 邦題の選定は、結果的に翻訳作業全体の中で最も難しい作業となり、印刷開始の直前まで決まらなかったらしい。
- < 邦題の最終候補 >
- 夢見る少女、窓辺の少女、窓辺に倚(よ)よる少女
- そのような切羽詰まった状況で、担当編集者から出された代案が ”赤毛のアン” だった。
- しかし、花子が最後まで本命として考えていたのは、原作の持つ世界観を充分に反映した ” 窓辺に倚(よ)る少女” で、この代案に対して花子は激怒した。
- ところが、メインの読者層と想定していた若い人の意見も聞くべきと考え直し、養女の”みどり”に"赤毛~"を含む最終案を見せたとたん
- 「素晴らしいわ!ダンゼン『赤毛のアン』になさいよ。いい題よ。『窓辺に倚る少女』なんておかしくって(*)」
- と言葉が返って来たことで、花子が翻意したと言われている。
(*) カナダ観光局公式WEBサイト日加修好85周年記念『モンゴメリと花子の赤毛のアン展』(2014年)より
【初刊本表紙のイラストについて】
- 原作と日本語版の初刊本、いずれの表紙にも少女のイラストが描かれているが、少女の髪は明らかに『金髪』!(笑)と言う、お茶目な構成になっている。
- これは『出版直前まで邦題が決まらなかった』と言うエピソードとも合致する。
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