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平成の清少納言はピーヒャラ ピーヒャラ パッパパラパ

~ 漫画、ちびまる子ちゃんにおける登場人物の描き分けについて ~

 

静省納言/給湯器

2023年9月撮影/静省納言(給湯器のロゴ)

【始めに】人名であることを分かり易くするため、さくらももこを、<さくらももこ氏>と表記しています。
 
 
エッセイ漫画、『ちびまる子ちゃん』。
 
 
 
<さくらももこ氏> の代表作で、テレビアニメやキャラクター単体としても国民的に親しまれている事は、わざわざ説明するまでもない。
 
しかし、主人公『まる子』と『それ以外の登場人物の間に存在する心理的な距離』が、比較的シンプルな法則に従って描き分けられている事に気付いたので、まとめてみたい。
 
 
【<さくらももこ氏>と清少納言との関係】
 

      • 高校時代に受けた作文の模試で次のような評価を得た事で、漫画家なるという夢に踏み出す自信と勇気を得た。

 

        • <採点者からのアドバイス>高校生が書いたとは思えない、エッセイ調の文体がすばらしい。まるで、清少納言が現代に来て書いたのかと思うような作文でした。作者の成長が楽しみです。
        • <評価>95点

 

        • *自伝的漫画『ひとりずもう』(下巻)で紹介されている

 

      • 清少納言の特長:毒を含んだ文章

 
 
【心理的に近い人ほど・・・】
 

      • 人物描写(とりわけ顔)に使われる線の本数が少なく、総延長的にも短い
        *感情が揺れている場合は線が多くなる

 

      • < 心理的な近さの表現例 >
            • 目が黒丸で描かれる
              • *星が入る場合もある
              • *初期は楕円に黒点だったものが単純化された
            • 鼻が描かれない
              • *家族の中ではおじいさんだけ描かれいる!
            • メガネかけている場合は目が描かれない
            • 主人公は『歯医者で治療を受けているシーンでさえ』歯が描かれていない
        •  
      • 頭身が小さい(頭部の比率が体全体に対して大きい)

 

【心理的に遠い人ほど・・・】
 

      • 写実的な表現になるため、線の数が多くなる

 

      • 警戒感や嫌悪感を抱かせる部分は強調される

 

      • < 心理的な遠さの表現例 >
            • 歯や鼻が描かれる
            • 容姿の特徴(顔のしわ、肌のデコボコ、、耳の形、顔の輪郭など)がリアルに描かれる
            • 不潔感や威圧感(服装、髪型、ヒゲなど)が細かく描かれる
            • 頭身が現実に近い

 
 
【作品の特徴】
 

      • エッセイ漫画と銘打っている通り、心の声や独白(モノローグ)が多い

 

      • 作者の最大の持ち味は、文字通り『中毒性を持つ毒』であるが、そのままでは一般人に対して強すぎる為、これを薄める事で作品として成立させた。
        • *絵に余白が多いのも、毒を薄める装置であり、手を抜いている訳ではない。

 

      • まる子と他者(人に限らない)の間にある心理的な距離が、線の数で描き分けられている作品。
      • *近い存在ほどシンプルに描かれる
        *必ずしも<さくら氏>の作品だけに限った傾向ではない

 
 
【<さくらももこ氏>と『ちびまる子ちゃん』の関係】
 

      • <さくらももこ氏>が『まる子』の姿を借りて『少女時代の公開生き直し』を行った作品。
        • *商業的には『ほのぼのしているようで毒があるギャク仕立て』と言う匙加減がヒットに繋がった。

 

      • 『実人生で満たされない(いなかった)部分を想像力で上書きする』ことが創作基盤となっている点で、『赤毛のアン』との共通性を感じる

 
 
【結論】
 

      • 『ちびまる子ちゃん』における書き込みの多さは、心理的な闇の深さ、あるいは毒の強さに比例している。

 

      • 『ちびまる子ちゃん』は、闇(病み)が深いほど鮮やかに咲く危険物、すなわち『漫画界の打ち上げ花火』であり、<さくらももこ氏>は、その花火師だった。

 

      • 主要キャラクターが一同に会するイラストも多数描かれているが、まる子を中心として心理的距離に応じて配置されている様子は、曼荼羅(まんだら)に似ている。

 
 
【補足】テレビアニメの主題歌『おどるポンポコリン』(1990)について
 

      • 『ちびまる子ちゃん』がテレビアニメ化される際、エンディングテーマとして、作者が初めて作詞を手がけた曲。
        • *後にオープニング曲へ昇格して大ヒット

 

      • タイトルを含めて徹頭徹尾意味がないと言う点が特徴で、『作者の言語センスを最大限発揮しながらも毒は極限まで薄める』ことに成功した作品と言える。

 

2022/05/30 改訂(2回目)
2022/5/21 初出

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