【 始めに(おことわり)】
- 本記事は時計の『精度』を主軸として展開しています。
- また、時計史においては『同等の技術革新が別な国や地域で別々に発生した例』もある為、その時期が必ずしも一致しない場合があります。
時計。
文字通り『時を計る』道具であり、天体観察(恐らく太陽と月)から始まったと思われるその進歩は、20世紀の中盤まで精度向上と小型化を通して人類が持つテクノロジーの最先端を切り開き続けて来たので、その歩みについて『精度』を軸にして確認して行きたい。
また、技術革新に伴い不要となった機能、機構、形態、用途なども多いが、ギミック化、象徴化、電子化などの形で生き残っている例もあるので、こちらもまとめてみたい。
【精度向上を軸に】
- <年に約28日の誤差(進み)>
- 所有数:人類全体で1個(天体としての月)
- 形態:天体観測
- 原理:月の満ち欠けが周期的であること(約28日周期)
- *現在でも中華圏の行事は陰暦で行われている物が多く、人間のバイオリズムには合っている面もある
- <日に数時間~24時間の誤差>
- 所有数:人類全体で1個(太陽)
- 形態:太陽あるいは影を目視
- *日没時は計測出来ず、天候や季節にも左右される
- *緯度が高いほど、季節変動が大きい
- *日時計は、教材、モニュメント、オブジェ等の形で、現在でも一定の需要や存在
- 原理:太陽の運行が一定速度であること
- <日に数時間以内の誤差>
- 所有者:国家
- 仕組み:流体を一定速度で一定量を落下させる
- 形態:水運時計
- <日に1時間以内の誤差>
- 所有者:国家、都市、権力者
- 仕組み:錘(おもり)の落下エネルギーを歯車で制御
- 形態:塔時計
- 時計塔や塔時計は文明度や文化度を示すシンボルとして、都市の主要建築物に多くに設置された。
- 【代表例】ビッグ・ベン。
- 鐘の音:ビッグ・ベンが付属する宮殿名の『ウエストミンスター』として学校のチャイムの定番にもなっている
- からくり人形 *時間を示す機能はオマケ程度と言うケースもある
- <日に10分以内の誤差>
- 所有者:大金持ち
- 主要技術:ゼンマイ、テンプ
- 形態
- 振り子時計(掛け/置き)
- 錘(おもり)を用いた掛け時計
- <代表例>鳩時計(1980年代に電子化)
- *ヨーロッパでは2021年現在でも『カッコー時計』が作られている模様
- <日に数分以内の誤差>
- 所有者:船会社、鉄道会社、金持ち、エリート
- 主要技術:ゼンマイ、テンプ
- 形態
- 船舶時計/マリンクロック/クロノメーター:外洋航海の生命線だった
- 懐中時計(個人で一つ)*小型化が進んだ。腕時計の1つ前の段階。
- 金時計(きんどけい)/銀時計(ぎんどけい):表彰の賞品として使われ、<エリート>の代名詞でもあった。
- 鉄道時計:2021年現在でも販売している
- 機械式時計(ステータスシンボルとして):精度、価格、耐久性など、ほぼ全ての点でクォーツ時計の方が優れている
- <日に1分以内(月に30分以内)の誤差>
- 所有者:一般人の大人、一般人家庭
- 主な形態:腕時計、置き時計、掛け時計、目覚まし時計、タイマー
- 主要技術: クオーツ(水晶)に電圧をかけると一定の周波数(約32,000回/秒)で振動する事
- <日に10秒以内(月に数分以内)の誤差>
- 所有者:一般人の高校生以上、一般人家庭(複数所有)
- 主な形態:腕時計、置き時計、掛け時計、目覚まし時計、タイマー
- 主要技術: クオーツ(水晶)に電圧をかけると一定の周波数(約32,000回/秒)で振動する事
- <日に1秒以内(月に30秒以内)の誤差>
- 所有者:一般人の大人(複数所有)、一般人の小学生以上、一般人家庭(各部屋に一台)
- 主な形態:腕時計、置き時計、掛け時計、目覚まし時計、タイマー
- 主要技術: クオーツ(水晶)に電圧をかけると一定の周波数(約32,000回/秒)で振動する事
- 実用品としては、この段階で完成(成熟)の域に到達したと言える
- <年に10秒以内の誤差>
- 所有可能者:一般人の経済的に余裕がある大人
- 主な形態:腕時計、掛け時計
- 原理:クオーツ(水晶)に電圧をかけると一定の周波数で振動(約400万回/秒)する事
- <人間の感覚では認識不可能な誤差>
- 主な形態:電波(修正)時計、GPS時計
- 原理:周期表 I族の原子が一定の周期で振動していること。これを用いた『原子時計』で計測された時間データを電波で発信する。
【実用性は低減したり消滅しているが、生き残っている機能や部品】
- 錘(おもり):鳩時計の装飾として
- オルゴール音:置き時計や掛け時計用に電子音で再現
- 砂時計・水時計:短時間のタイマーやインテリアとして、現在でも需要がある
- <例>調理タイマー、紅茶
- *水時計の流動剤として、実際は油が使われることが多い
- ゼンマイ:機械時計(特に高額腕時計)の動力源としては健在
- ネジ巻きの穴:掛け時計のデザインとして
- *振り子とセットでデザインされる事も多い
- 日時計:学校などの教材兼オブジェとして
- 振り子:置き時計や掛け時計の動きのある飾りとして
- 歯車:からくり時計などで、時計の駆動に関係しないギミックとして
- 針:スマホやスマートウオッチでは、画像表示で代替されている。
- ベル音:目覚まし時計用。電子音で再現したり置き換えられているが、大音量の製品では金属製のベルが現在でも使われる
- ボンボン音:掛け時計の音。もともと金属棒を叩いて発生させていた物を電子音で再現。
【将来消滅する可能性がある部品】
- 針(時分秒針):『ディスプレイの画像』として表示される例ケースが増えそう
- リュウズ/竜頭:腕時計で電波修正が普及してから、機能上は不要になりかけている
【まとめ】
- コンピューターやデジタル機器が普及するまで、科学技術の最先端を担ってきた分野であり、時計製造の技術が他の産業分野に転用されたり、影響をを与える事も多かった。
- *集積回路(IC)の応用も早く(1970年代前半)、電卓と並んで民生用の量産化を牽引した
- 小型・軽量化やコストの低下により、個人レベルで複数所有できるようになっても、高級時計を身に付ける事は、現在でもステータスシンボルとしての位置を占めている。
- 時計は、『性能の高さ(精度)と値段が必ずしも比例しない』と言う点で、稀な特徴を持つ工業製品
- 時計自身が(憧れの品として)祭の山車や建築物のギミックとして用いられた例も多い。
初出 2024/1/4